大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成元年(ワ)142号 判決

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金一四二万八五七一円及びこれに対する平成元年三月二四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ金六六六万六六六六円及びこれに対する平成元年三月二四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外佐和田英司(以下「英司」という。)は、昭和六一年五月一日、被告との間で、次のとおり保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

(一) 保険契約者・被保険者 英司

(二) 保険者 被告

(三) 保険の種類 新・特別終生安泰保険

(四) 保険金額 死亡保険金額金二〇〇〇万円

(五) 死亡保険金受取人 訴外佐和田タキ(以下「タキ」という。)

2(一)  本件保険契約上の死亡保険金受取人で、英司の母であるタキは、昭和六二年五月九日に死亡した。

(二)  タキにはその死亡当時配偶者がいなかったので、タキの死亡により、タキの実子である原告ら及び英司がその共同相続人となった。

3  英司は、タキの死亡後、新たな死亡保険金受取人を指定することなく、昭和六三年一一月一三日に死亡した。

4(一)  商法六七六条二項には、保険金受取人が死亡した後に、保険契約者が新たな保険金受取人を指定することなく死亡したときは、保険金受取人の相続人が保険金受取人となる旨規定されている。

(二)  右の場合に該当する本件において、保険契約者たる英司死亡当時に生存する死亡保険金受取人タキの相続人は原告ら三名のみであるから、原告らが本件保険契約上の死亡保険金受取人の地位を取得した。

5  よって、原告らは被告に対し、それぞれ金六六六万六六六六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年三月二四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実は、認める。

2  同2の事実は、認める。

3  同3の事実は、認める。

4(一)  同4(一)の事実は、認める。

(二)  同4(二)のうち、他の一一名の者と共に原告らが本件保険契約上の死亡保険金受取人の地位を取得したことを認め、原告らのみが右地位を取得したとの主張は争う。

5(一)  保険金受取人の死亡後、保険契約者が保険金受取人指定権を行使せずして死亡したときに、保険金受取人となるべき者とされる「保険金額を受取るべき者の相続人」(商法六七六条二項)には、保険金受取人の相続人その人のみならず、保険金受取人の相続人も保険契約者が保険金受取人指定権を行使せずして死亡する以前に死亡しているようなときには、その相続人の相続人もしくは順次の相続人もこれに含まれる。

(二) 本件においては、(1)  保険金受取人タキの死亡により、原告ら及び英司がその共同相続人となった、(2)  しかし、その後、保険金受取人の相続人で保険契約者たる英司が保険金受取人指定権を行使せずして死亡したので、英司の相続人も原告らと均等の割合で死亡保険金受取人の地位を原始取得した、(3)  タキ及び英司の相続をめぐる関係人の身分関係等は、別紙相続人関係表に記載のとおりである、(4)  英司の相続人には、原告らのほか、別紙相続人関係表に記載の訴外澤田敬公、同佐和田惠教、同佐和田ヨシ、同伊波良雄、同大城克子、同川満幸子、同伊波敏明、同伊波俊三、同伊波毅、同伊波正吉、同上間洋子ら一一名の者がいる、(5)  したがって、原告ら三名は、英司の共同相続人一一名と共に、本件死亡保険金受取人の地位を均等割合にて原始取得したもので、原告らの取得額は、それぞれ本件死亡保険金額金二〇〇〇万円を一四で除した金一四二万八五七一円である。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1ないし3の事実は、全て当事者間に争いがない。

二  死亡保険金受取人となるべき者(商法六七六条の趣旨)について

1  商法六七六条一項は、保険金受取人が被保険者と異なる第三者である場合において、その保険金受取人が死亡したときは、保険契約者はさらに保険金受取人を指定することができる旨、また、同条二項は、保険契約者が右の保険金受取人指定権を行使しないで死亡したときは、保険金受取人の相続人をもって保険金受取人とする旨、それぞれ規定している。

2  ところで、右商法六七六条一項の趣旨は、保険金受取人が被保険者以外の第三者である場合に、その保険金受取人が被保険者より先に死亡したとしても、保険金受取人の死亡によりその指定は当然には効力を失わず、その相続人が保険金受取人となるが、保険契約者は保険金受取人の死亡後で被保険者の死亡前に新たな保険金受取人を再指定することにより、右の擬制的な保険金受取人の変更を覆す権利を有するというものであり、また、同条二項の趣旨は、保険契約者が右の保険金受取人再指定権を行使しないで死亡したときは、保険金受取人の相続人または順次の相続人であって、保険契約者の死亡当時に生存する者をもって保険金受取人とするというものであり、その相続人は、相続によってではなく、固有の権利として保険金請求権を原始的に取得するものと解される。

3  そして、右のような商法六七六条の趣旨に鑑みると、保険金受取人の共同相続人の一人が保険契約者兼被保険者自身でもあるときは、保険金受取人の死亡後保険契約者が新たな保険金受取人を再指定することなく死亡した場合には、保険契約者の相続人(代襲相続人を含む)と保険契約者以外の右共同相続人とが、各自均等の割合で(民法四二七条参照)保険金受取人の地位を原始的に取得するものと解するのが相当である。

三  本件の場合における死亡保険金受取人となるべき者及びその保険金取得額について

1  前記一の当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第一、第二号証、第五号証の一ないし六、第六号証の一、二、第七号証の一ないし一三、第八号証の一ないし四、第九号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件保険契約上の死亡保険金受取人で英司の母であるタキは、昭和六二年五月九日に死亡した。

(二)  タキにはその死亡当時配偶者がいなかったので、タキの死亡により、タキの実子である原告ら及び英司がその共同相続人となった。

(三)  その後、保険契約者兼被保険者である英司も、新たな死亡保険金受取人を再指定することなく、保険期間満了前の昭和六三年一一月一三日に死亡した。

(四)  タキ及び英司の相続をめぐる関係人の身分関係等は、別紙相続人関係表に記載のとおりであって、英司の相続人には、原告らのほか、別紙相続人関係表に記載の訴外澤田敬公、同佐和田惠教、同佐和田ヨシ、同伊波良雄、同大城克子、同川満幸子、同伊波敏明、同伊波俊三、同伊波毅、同伊波正吉、同上間洋子ら一一名の者(なお、伊波良雄以下の訴外人らは英司の代襲相続人である。)がいる。

2  右1に認定の各事実と前記二の説示とを併せ考察すると、原告ら三名は、原告ら以外の英司の右共同相続人一一名と共に、本件死亡保険金受取人の地位を均等割合にて原始取得したものということができる(なお、本件保険契約についての約款〈前掲乙第一号証〉には、本件のような事案の処置に関する規定は存在しない。)。

そうすると、原告らの取得額は、それぞれ本件死亡保険金額金二〇〇〇万円を一四で除した金一四二万八五七一円となるものというべきである。

四  結論

以上によれば、原告らの本訴各請求は、それぞれ右金一四二万八五七一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年三月二四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右の限度においていずれもこれを認容し、その余は失当としていずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九三条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例